りこぴた読書感想文と日記

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宮口幸治(著)「ケーキの切れない非行少年たち」新潮新書,新潮社,2019. ケーキの切れない非行少年たちを読んで

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---ネタバレします---

 

 

 

まず、医療少年院には「境界知能」の子どもが多いということに驚いた。犯罪と「境界知能」と認知機能の関連。これを読んで「境界知能」の人に悪いイメージが付かなければいいが、と懸念した。

 「境界知能」で困っている人々はなかなか気づかれない。本書によると人口の十数パーセントいるそうで、子どもでは小学校2年生から「困っている」というサインを出している。認知機能が弱く、クラスの下から5人が要注意で、巷で流行りの褒める教育だけでは問題は解決しないという。学習の基礎となる「認知機能」を向上させるために、著者の提唱する1日5分のコグトレ(認知機能強化トレーニング)の実践が必要とのことだ。読んでみると、この本の目次はまるで要点の要約のようで、著者の本気で理解させたい気持ちを感じる。

「境界知能」で困っている人たちの中で医療少年院に行った者の中には、世の中のすべてが歪んで見えている可能性がある者がいる。認知機能が低下している。表題のようにホールケーキを3等分できない人も多くいる。とても驚いた。余程のことだ。一緒にお菓子作りして簡単なケーキでも作ってくれる人がいたらまたちがうものなのだろうか。一緒に切って覚えるとか。それとも認知機能が弱いからそういった体験があっても難しいものだろうか。とにかく衝撃だった。

引用すると、医療少年院にいる「計算ができず、漢字も読めない。計画がたてられない、見通しが持てない。そもそも反省ができず、葛藤すら持てない」などの特徴を持つ者は、怒っているのだそうだ。怒りの背景を知らなければならないという。

 認知機能や感情統制の弱い、融通が利かない、自己評価が不適切、対人スキルが乏しい、身体的不器用さという特徴を持つ者は、刑務所だけでなく学校にも一定数いる。保護者にも社会にも気づかれず、病名も付かず、非行化も懸念される。気づかれないから逮捕される。本来なら保護が必要なのだ。誰かが気づいて治療ができれば犯罪者にならずに済んだのかもしれない。認知機能への支援。今の学校のシステムには認知機能への支援は難しい。認知機能向上の支援システムの必要性を感じる。

 認知機能の弱い者には「自己への気づき」と「自己評価の向上」が必要である。そのためには1日5分のコグトレが有効だという。学校での朝の会などに、と著者は述べており、それなら取り入れられそうな気がする。こういう現実があるのだから、学校では積極的に取り入れてほしいと思う。

自分の学生生活を思い返してみても、認知機能向上のために学校で何かをしたことはほとんどなかった気がする。学習の土台となる認知機能。どんなに大切なことか。コグトレのやり方はこの本を読んでいただきたい。

この本を読むと犯罪者の現実に同情する部分がでてきてしまいそうになるが、犯罪自体には厳罰を求む。犯罪は許されないことであり、最低だ。犯罪者にならない為の認知機能支援システムは必要である。この本を読んでそういう機運が高まればいい。2020年のベストセラーになったのだ。それだけで終わらず、施策につながると良いと思う。

この本を読んで、私の中で今までの犯罪者へのイメージが一新した。認知機能という観点は私の中には無かった。これが本当なら大変なことだ。救われる個人が増えますように。そしてその上で著者の言う「犯罪者を納税者に」が実現するとよいと思う。皆幸せな人生を歩めますように。